デロイト デジタルは、医療従事者、学会、患者団体、民間企業などが連携し、適切な早期診断および診断率向上を目的とした医療コンソーシアムの設立・運営を支援しています。今回は、その設立・運営に尽力しているデロイト トーマツ グループのプロフェッショナル――DT弁護士法人 パートナー 岡 香里、有限責任監査法人トーマツ 監査・保証事業本部 ライフサイエンス事業ユニット パートナー 大谷 博史、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ライフサイエンス&ヘルスケア シニアマネジャー Deloitte Digital 田尾 隆幸による鼎談をご紹介します。

2022年1月14日

データドリブンなビジネスへの移行が進む

――今回は、医療コンソーシアムの立ち上げに尽力されたプロフェッショナルの皆様にお集まりいただきました。まずは自己紹介を兼ねて、ここ4〜5年行ってきた取り組みなどをお話していただけますか?

田尾:私はここ4〜5年「製薬企業のコマーシャル領域におけるデジタルトランスフォーメーション」が大きなテーマでした。従来は、シェア・オブ・ボイスに立脚したプロモーション活動が行われていましたが、デジタルの進化に伴い、その枠組みからの脱却が求められていました。そのような状況下、メールやウェブといったデジタルツールやコールセンターなどマルチなチャネルを確立し、また、それぞれのチャネルが連動しながら医療従事者に適切な情報提供を行っていくコマーシャルモデルの構築と導入に取り組んできました。また、最近は患者に対して直接的にサービス/ソリューションを提供するモデルの構築・導入もご支援しています。

大谷:私は製薬企業等において、会計監査を中心としつつ、会計や内部統制関連のアドバイザリーサービスも行っています。我々が実施する会計監査の世界においても、デジタルツールの活用は進んでいますが、提供しているサービスの目的や内容自体は以前から大きくは変わっていません。ただ、クライアントのデータ活用の進展やテクノロジーの急激な進化に伴って、今後、我々のビジネス自体に大きな変化が起こってくると考えています。

岡:一方、法規制面では、ここ数年、分野によっては著しい変化を遂げていて、クライアントの相談内容も大きく変わってきています。個人情報関連だけでも、個人情報の取り扱いに関わる企業の開示、情報提供義務等が強化される一方で、仮名加工情報が新設されることとなったり、数年前には次世代医療基盤法も施行されたりと、いわゆるビックデータの活用に向けて社会全体が取り組んでいるように見受けられます。日本に限らず、多くの外国でも同様なので、グローバルに事業をやっておられるクライアントは、最新の法令対応だけでも多くの労力を割くことになっています。また、相談内容から企業のビジネスが変わってきていることもうかがえます。たとえば、M&Aや組織再編関連の相談では、データを利活用する会社を中心に据えて再編したいので最適なスキームは何か、といった相談が増えています。このことから、企業がデータドリブンなビジネスに移行しつつあることがうかがえます。

田尾:我々コンサルタントも、多くのクライアントに対してデータドリブンでのビジネスを確立することの必要性を訴えています。データを咀嚼してインサイトを得る、データを軸により正確で早い意思決定を行うことはもちろん、データから意味を見出し、新たなビジネスモデルやソリューションを作っていくことが求められます。

一方、現在の医療業界を見ると、データドリブンへの移行はまだまだ道半ばです。医療における重要な情報が詰まっている電子カルテについても、特にクリニックへの導入が進んでいないというのが実状です。

我々としてもこの状況を変えていきたいと考えています。電子カルテのデータや患者が持っているデータをデータプラットフォームに集約し、そのデータを起点に、保険会社や製薬企業、医療機関などがエコシステムを形成し、それぞれの強みを活かしながら、患者に対して一気通貫の医療体験を提供していく。そういったことが可能になっていく未来を描いています。

ただし、障壁もあります。現在の電子カルテは、導入している医療機関に合わせてカスタマイズしているため、さまざまなフォーマットが存在しています。そのため、データの集約や利活用がやりにくくなっているのです。

アメリカの場合、さまざまな規格の電子カルテをインテグレーションする規格を用意しているため、電子カルテのデータが利活用しやすくなっています。日本でも同様の取り組みは始まってきていますが、もっともっと加速する必要がありますね。

そのような世界になってくると、法律に関する論点も増えてくるはずで、たとえば個人情報をどのように取り扱えばいいのかといったことは必ず問題になるでしょう。

デロイト トーマツ コンサルティング/ライフサイエンス&ヘルスケア/シニアマネジャー/Deloitte Digital/田尾 隆幸 田尾 隆幸|Takayuki Tao
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ライフサイエンス&ヘルスケア シニアマネジャー
Deloitte Digital
製薬企業向けにデジタルトランスフォーメーションの戦略立案から実行までを一気通貫で支援している。また、近年は患者向けソリューションの構想・構築や、コンソーシアム/エコシステム形成のプロジェクトも手掛けている。


岡:個人情報もそうですが、「共通言語」の課題もあると考えています。たとえば、医療の専門知識を持たない患者は医師が書いたカルテを見ても、その内容を全て理解することはできません。同様に、保険会社や製薬企業、医療機関それぞれがコミュニケーションできる「共通言語」もありません。データドリブンを促進する場合、お互いが理解できる「共通言語」が必要になるはずです。

そのためには、専門家の垣根を低くする必要があるかもしれません。たとえば、カルテであれば医療関係者、アルゴリズムであればITの専門知識をもつ人材が必要になります。そういった専門性を有している集団が一体となって、誰でも理解できる言語でサービスを提供することが求められるようになるでしょう。

競争から協創へ

田尾:そのためには「協創」という概念が重要になると考えています。たとえば、我々が支援している医療コンソーシアムでは、医療機関、患者団体、製薬企業、IT企業が協創できるプラットフォーム(場)を作っています。同じような協創の考え方を広げていく必要があるでしょう。

大谷:「協創」を実現するためには、全てのステークホルダーがWin-Winでなければ成り立ちませんので、ガバナンスも含めた適切な仕組みを作ることが重要だと思います。たとえば今回の医療コンソーシアムでは、医療従事者や患者団体、製薬企業、IT企業など、さまざまなステークホルダーが参加しています。その中で、一部の企業や団体が有利になるような仕組みでは、サステナブルなコンソーシアムになりません。

田尾:その通りです。また、ビジネス的に成立することも重要だと思っています。今回の医療コンソーシアムは非営利団体ですが、NPOなどの非営利団体は資金的な理由から規模の拡大が難しく、サステナビリティも高くないこともあります。ある日突然、取り組みが止まってしまうこともありますよね。

規模の拡大やサステナビリティを高めるには、ビジネスとしてレベニューを上げ、利益を創出する必要があります。レベニューを上げていくには仕掛けが必要で、たとえば患者のデータを集めたら、それを2次利用として販売する、また各種データをベースにアルゴリズムを開発して販売するといった展開も考えられます。運用コストをそのレベニューで賄えるようになれば、規模の拡大やサステナビリティも向上していくでしょう。

大谷:確かに、コンソーシアムを長期的に持続させるためには、営利団体にしていく必要がありますね。そのためには、ガバナンスも含めたビジネスとしての仕組みを構築していかなければなりません。データビジネスを行うのであれば、データの適切な管理や運用、またサイバーセキュリティなども考慮する必要があります。さらに、営利団体であれば、会計や税務といったバックオフィス機能の整備も必要ですね。利益を適切に分配する仕組みがあれば、より多くの企業や団体がこの取り組みに参加するインセンティブになるでしょう。

岡:日本は高齢社会が到来しており、医療コストの抑制が喫緊の課題になっています。医療コストを抑制するために、膨大なデータの利活用および分析が力を発揮できること、その方法についても現実的に考えていかなければいけません。また、そのようなフレームワークを作る際も、法務や会計監査のナレッジは役に立つはず。そういった意味でも、我々をもっと活用してほしいですね。

DT弁護士法人/パートナー/岡 香里 岡 香里|Kaori Oka
DT弁護士法人 パートナー
海外ネットワーク及び言語力をスキルとして、製造・流通、自動車、通信、ライフサイエンス業界のクライアントのクロスボーダー・ディール及び不祥事対応に強みを有する。データ化社会が要求するOpen且つSecuredなシステムの完成のために、会社又はアソシエーションの体制作り、提携方法の助言から法規制の分析、それらの遵守状況のフォロー、有事対応までトータルでサポートする。


――データを活用し、AIの利活用が進んでいる業界が増えています。弁護士や会計士の業務では、実際にAIを活用されていますか?

大谷:AIを活用したデジタルツールは会計監査の現場ではすでに使われています。例えば、過去に不正を行った企業の財務情報をAIに学習させ、その分析力を用いて、我々が会計監査を実施する企業の不正の兆候を検知するというようなツールを用いています。本当に不正が発生しているかどうかは人間が判断しますが、判断するための材料をAIが提供してくれるという利用の仕方です。

また、会計監査では、帳簿に計上されている内容や数値が請求書や領収書のような外部証票と一致しているかといった比較的単純な確認作業もありますが、紙ベースでの業務をデジタル化することでAIの活用を推進するとともに、トーマツ監査イノベーション&デリバリーセンターという業務集約拠点を活用するといった取り組みも行っています。

岡:法務もデータ化の波が押し寄せています。たとえば契約書作成でも、昔は弁護士の独壇場だったのですが、今は多くの会社でAIが使われていますね。性能も年々よくなっていて、契約書に関する膨大なデータを蓄積させ、その中で大多数の利用者が使用している契約例を仮の雛形として標準化するほか、AIが、その他何%の企業がこういった表現または規定を追加しているといったことを示してきます。条文ごとの書式の統一は勿論のこと、条文内のリファレンスの飛び先のチェックといった作業もAIが行っています。

刑事裁判における量刑判断などもAIを参考にする国、州は出始めています。しかし、例えば、証人尋問など、証人の微細な表情の変化や動きから事実認定を行うような場面については、やはりAIではなく、会計と同様、人が行っています。コンサルタントでもAIは活用されているのですか?

田尾:我々はクライアント毎に異なるイシューを解決しているということもあり、コンサルタントの作業自体にAIを取り入れているケースは多くはありませんが、我々が開発するデジタルアセットにはAIを積極的に取り入れています。

また、テクノロジーが進化したことで、純粋なリサーチ業務などは減ってきました。クライアントもあらゆる情報にリーチしやすくなったため、我々のサービスとして大きな価値を生まなくなったのだと思います。テクノロジーや環境によって、コンサルタントとしての価値の出し方も大きく変わっています。

高度な専門人材によるコラボレーションが益々重要に

――今後5年先、10年先には、世の中がどうなっていると思いますか?

田尾:アジャイルやスクラムなど、クライアントと議論しながらその場で一緒に作っていくようなプロジェクトが増えていると思います。また、今回の医療コンソーシアムもそうですが、構想を作って終わりではなく、立ち上げや運営、ゴールにコミットしていく必要があります。今後コンサルタントという業務は、「シェルパ」のように、クライアントと一緒に考え、行動し、結果も出すというように変わっていくと思います。そういったことで差別化していかないとコンサルタントとしての価値がなくなってくるでしょう。

大谷:我々の業界では、AIやRPAといったさまざまなテクノロジーを活用することで単純作業が削減されていき、専門知識のある会計士だからこそできる判断業務や、クライアントとのコミュニケーションに使う時間が増えていくでしょう。
更に、単純作業から解放されることで生み出される時間を使って、「会計監査」以外の領域でも社会に貢献することができると考えています。

我々は「会計」の専門家であると同時に、監査を含めた「保証」の専門家でもあります。今後、企業のビジネスにおいてデータの利活用が重要となる環境下で、財務データのみならず、例えば医療データも含めたあらゆるデータが適切に保全され、正しく利活用される仕組みが整備されているかどうかを第三者が保証するというニーズが生じてくるでしょう。第三者が保証しているといった安心感がないと、データの利活用も進まないはずですからね。そういったデータガバナンスに関する「保証」を我々会計士が提供する世界が訪れると予想しています。

有限責任監査法人トーマツ/パートナー/大谷 博史 大谷 博史|Hirofumi Otani
有限責任監査法人トーマツ
監査・保証事業本部 ライフサイエンス事業ユニット パートナー
ライフサイエンス、小売、製造、商社、建設等の多数の業界において20年以上の会計監査の経験を有する。また、製薬を中心としたライフサイエンス業界において、IFRS導入、内部統制構築及び高度化、原価管理、管理会計高度化、組織再編等のアドバイザリー業務にも従事。


岡:法務も基本的には同様です。データは、社会のフラット化を促進します。データにアクセスする環境があれば、法律の知識などもある程度収集できます。法務は、企業の活動を確認し、法的に問題ないことを「保証」するといった業務がどうしても多くなっていくと思われます。監査と同様、半分以下の人で業務が賄えるようになるかもしれない。ただ、その分、我々弁護士も、純粋な法律分野だけでなく、多種多様な分野に関する知識をどんどん蓄積していく必要があるということになります。

法務、監査・保証業務、コンサルティングといったビジネス間の敷居が低いため、そういったときに、デロイト トーマツ グループの強みを発揮することができます。企業としてはもちろんそれぞれ独立していますが、一緒に取り組むことへのハードルが低いというカルチャーがあります。お互いに助けられている経験があるし、成功体験も多い。日常的な業務をしながら、様々な専門家に直接会ってタイムリーに相談ができるといったネットワークの広さは大きなメリットだと思います。

田尾:今後は各プロフェッショナルの連携が増えてきますよね。コンサルタントだけで取り組むのではなく、その時々のイシューに応じて、専門性を持った人を集めてサービスを提供するようになっていく。

例えば、データビジネスの戦略を立案し実行を支援していくのがコンサルタントだとすれば、その際の「保証」は会計士が、ルールメイキングは弁護士が行っていく。どれか一つが抜け落ちてもクライアントのニーズにマッチすることが難しくなっていくのではないでしょうか。

我々は、各領域のプロフェッショナルの知見や経験を活かして、デロイト トーマツグループ一体となってクライアント、そして社会にインパクトを与えるような取り組みをこれからも推進していきます。

――ありがとうございました。

DT弁護士法人 岡 香里/有限責任監査法人トーマツ 大谷 博史/デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 田尾 隆幸

プロフェッショナル

岡 香里

岡 香里

DT弁護士法人 パートナー

海外ネットワーク及び言語力をスキルとして、製造・流通、自動車、通信、ライフサイエンス業界のクライアントのクロスボーダー・ディール及び不祥事対応に強みを有する。データ化社会が要求するOpen且つSecuredなシステムの完成のために、会社又はアソシエーションの体制作り、提携方法の助言から法規制の分析、それらの遵守状況のフォロー、有事対応までトータルでサポートする。


プロフェッショナル

大谷 博史

大谷 博史

有限責任監査法人トーマツ 監査・保証事業本部 ライフサイエンス事業ユニット長 パートナー

ライフサイエンス、小売、製造、商社、建設等の多数の業界において20年以上の会計監査の経験を有する。また、製薬を中心としたライフサイエンス業界において、IFRS導入、内部統制構築及び高度化、原価管理、管理会計高度化、組織再編等のアドバイザリー業務にも従事。

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